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2010 - present
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◆◇ プロローグ

田舎の小さな古寺の前に樹齢二千年以上と云われる桜の樹がある。

その桜は妖しくも美しく、どこか神聖さも感じさせる桜には奇妙な噂が多いらしい。

そんな桜の樹へ先人たちが畏れ敬いつけた呼称が仙人桜である。

仙人桜の木下には小さな川が流れ、その上を渡り橋と呼ばれる橋がかかっており、月夜に照らされる姿はなんとも面妖で雅な佇まいだと云う。

奇妙な噂の一つに月の満ち欠けで彼岸へと繋がる、というものを伝え聞いた。

真偽の程は誰にも分からないが、その昔桜の世話をしていた寺の住職が新月の夜に橋の上で微かに童唄を耳にしたと手記に残している。

そのまた僧侶の子孫が満月の夜に枝垂れた桜の隙間から別の景色を一瞬目にしたが、瞬きをすると消えてしまったので寝ぼけていたのかと首を傾げながら手記に残し、そうして仙人桜の木下の渡り橋は月の満ち欠けで彼岸へと繋がるらしいと語り継がれて寺の言い伝えとして残ったそうな。

そんな言い伝えですが、人ならざるモノの棲む世界があったらどうでしょう。

​人間たちが知らないだけで遥か前から彼岸は存在しており、昔の彼岸は無法地帯でした。

今から千五百年程前に鬼神の三姉弟により彼岸は統治され、善良な人ならざるモノが棲む常世と、黄泉へとやってくる亡者や現世で悪さをした妖や付喪神を裁く地獄が誕生。

 

少しずつ治安は良くなり、今では人ならざるモノにとって暮らし易い世となりました。

それに反し、年々年を重ねるごとに人間界もとい現世は夜から闇を奪われ、人ならざるモノにとって生きにくい世となり、困り果てた妖や付喪神たちは常世へと徐々に引っ越しを始めるようになります。

常世の住民になるには役所のような役割も持つ宵明神宮にて住民登録の手続きが必要で、一度に大勢押しかけてしまえばてんやわんやで大変なことになってしまうかもしれません。

そこで、満月の夜と新月の夜にだけ現世から常世や黄泉への道を開き、住民登録の期間を一定期間ずつ設けることにしました。

そうして住民の絵姿や経歴、職業などを書き記した巻物が常世絵巻と云われるものにございます。

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